大阪府登録文化財所有者の会事務局長 寺西興一 1、思い込みは恐い 築70年の長屋は、取り壊され賃貸マンションに建替えられようとしていた。老朽化し、寿命が尽きた長屋の土地を生かすためには経営上、それ以外、考えられなかった。賃貸マンションを建設するためには、融資制度や税の減免などの制度が整備されていたが、老朽長屋を生かすための制度は、皆無であることからもわかる。私も土地活用のためには、マンションに建替えなければならないと思い込んでいた。縁あって、長屋を残し、長屋を改修してからも、経営的には、マンション建設をしていた方が、有利だと思い込んでいた。 ある講演会で、長屋再生の活用事例ということで、紹介してほしいという話があり、その時に、実際にマンションを建てていた場合と長屋を再生した場合との経済的比較を思いつき、両者を比較してみた。その結果、私の思い込みがいかに間違っていたかということに気づいた。 2、マンションを建設した場合の収益は、年間300万円 敷地面積が300uで、1戸60uの貸室が10戸建設できる。1戸11万円/月の家賃で、年間1300万円の家賃収入が、入ってくる。しかし、このマンションを建設するのには1億7千万円の費用がかかり、うち2千万円は、自己資金としても、残りの1億5千万円は、銀行からの借金で賄う必要があり、その返済には、毎年730万円はかかる。それに建物の固定資産税等が135万円ほど必要で、その他の必要経費を、加えると全部で、1千万円程度になる。従って、家主の手元に残るお金は、300万円程度となる。 3、長屋を再生した場合の収益は、年間600万円 長屋を1軒400万円かけて改修した。4軒全部で1700万円かかった。マンション建設と比較すると、自己資金内に収まるので、銀行に借金を返済する必要がない。また、建物の固定資産税等は、70年も経っていれば、ほとんど価値がなく年間2万円であった。実にマンションの場合の70分の1である。長屋は、1軒当たり90uあり、前庭・裏庭付である。住宅を店舗に用途を変更できることもあり、家賃としては、1軒あたり15万円とすると、年間720万円の家賃収入である。必要経費を差し引いても600万円は、家主の手元に残ることになる。 4、再生することは、経済的にも、地球環境にもやさしい マンション建設と長屋再生の収益比較では、長屋再生の方が、2倍の収益があることが、わかった。しかし、長屋再生は、単に収益だけでなく、マンション建設のために潰され、燃やされることとなる運命であった老朽長屋のことを考えると、改修工事によって寿命が、さらに70年延び、地球環境にもやさしい選択であったといえる。 |
長屋改修とマンション建設の収益比較 (寺西家阿倍野長屋の例)
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