日本に来て思うこと―日本と中国をつなぐもの(2010年12月22日)
 大阪大学大学院理学研究科博士前期課程  周家州
 大阪大学大学院理学研究科博士前期課程  王羅曼

 大阪大学大学院理学研究科博士後期課程、2009・2010学年度米山奨学生  袁厚群

私達の専門分野は化学です。この分野には日本に学ぶことが沢山あります。それで日本に来て勉強することになったのですが、日本に来る前に少し心配なことがありました。それは、中国と日本の間にはこれまでいくつかの揉め事があったので、日本人が私たち中国人にあまり友好的でないのではないかということです。この心配は日本に来て数日で吹き飛びました。大学の中だけでなく町の人たちも、皆大変親切で、温かく接してくれたからです。国と国との関係は人と人との関係と全然違うのだということが良く分かりました。

このことを、大学の留学生パーティーで名誉教授の畑田耕一先生にお話ししたところ、先生が次のようなことを言われました。「フロリダ大学の教授の家を訪問し、夕食後家族の人たちとお話しをしていた時に、何かのはずみで中学生の男の子が『ロシアはけしからん』と言ったのです。そうしたら、教授が『ロシアという国については確かに私もそう思うことがあるが、ロシア人は皆よい人だよ。このことはよく頭に入れておくように』と非常に強い口調で言われたのです。そのとき私は、世界平和の根本をこのオランダ生まれのアメリカ人の教授から教えられたような気がしました。たとえ、国と国との間にトラブルがあったとしても、両方の国の人たちが仲良くしている限り、平和は保たれるのです」と。

中国人の別の友達がこんなことを言っていました。「日本人はよく知っている人には凄く親切にしてくれるけれど、知らない人には、ものも言わないことがある。でも、それは不親切なのではなく、知らない人とお話しをする習慣がないからなのだ」と。私が日本に来てすぐに温かく親切な人たちに出会えたのは、何人もの人たちと知り合いになれる機会に恵まれたからかもしれません、あるいは、誰かが私がそういう機会を得られるような努力をしてくれていたのかもしれません。いずれにしても、知らない国に来る時に、その国の習慣をよく勉強しておくことは大事だなと思いました。

毎日、大学での研究実験を終えて寮に帰ると、係のおばさんが「お帰り」と言ってくれます。この一言が心に沁み入ります。一日の疲れが吹き飛びます。このような心遣いは中国にはありません。日本人が大切にしてほしい良い習慣の一つだと思っています。

日本に来て嬉しかったことの一つは、研究室が大変温かく家庭的なことです。一緒に食事や飲み会をしたり、旅行に行ったり、そして何よりも、教授が私たち学生にまるで親のようにに、接して下さいます。この日本の大学の温かい雰囲気は、試験の点数・結果をあまり重視しないことによるのではないかと思います。学生がそれを良いことに勉強しないということさえなければ、これも大変良い習慣だと感じています。中国は高校までではなく、大学に入ってからも試験、試験で締め付けられます。それでよく勉強するのは悪いことではありませんが、度が過ぎると、全ての試験に合格すれば、教授と学生のつながりも切れてしまうようなところがあるのです。大学生と言うのは、本来、試験がなくても勉強するべきものです。

教授と学生、先生と生徒との間の良好なコミュニケーションは、教育・学習の効果を上げるうえで、非常に大事なことです。日本の大学の授業には教授が一方的にしゃべるだけのものが多いのは気になります。もっと学生が質問したり、意見を言う方が良いと思います。大学院の授業では、授業が終わってから学生が先生に質問することはよくありますが、授業中は稀です。研究室の中ですら、「少しおかしいな」と思うことでも、「先生がそう言っているのなら、仕方がないよ」で終わってしまうことが多いです。中国の大学では、授業中だけでなく、皆が集まるところで、お互いに質問したり、意見を言い合うのが普通です。これが、中国人が世界の大学で活躍するための原動力になっていると思います。前記の畑田先生も「私は授業や講演で学生や聴講者に良く質問したり、意見を求めたりする。それで、大阪大学でも、退官後に努めた福井工業大学でも、うるさい先生と嫌がられていた。しかし、最近になって、当時の学生、特に外国との合弁会社に勤めているような学生から、『先生に鍛えられたお陰で、企画会議など重要な会議で、意見を十分に発表出来て、会社の役に立っています』などと言われるようになった」と言っておられます。そして、「日本人が、そしてまた日本が、世界の平和と人々の幸せに貢献するためには、国民の全てが自分の意見を明確に言うことが出来て、立場や考え方が自分と違う人たちと十分に意見交換をして、問題の解決の出来る能力を備えることが急務だと思う」と結ばれました。今日のパーティーで、畑田先生と私たち3人で、いろいろなことをお話しできたこと、大変うれしく思っています。

 本稿は、2010年12月9日開催の大阪大学理学部留学生パーティーでの著者たちと大阪大学名誉教授畑田耕一との会話の内容を畑田が編集し、著者の校閲を経て作成されたものである。


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